小舟に導かれるままに進むと、青い潮だまりの先に洞窟が見えてきた。 舟はゆっくりと暗闇に入り、鈍い音を立てて岩にぶつかり停止した。 私は慎重に舟を降り、岩場へ足を踏み出す。水が滴る音が、高く、遠く、時々響いている。空気は冷たく、触れた壁も想像を超えるほどに冷えている。 青い闇の中、少し足を奥へと進めると、仄かな光が見えた。 金色、というほど輝いてはおらず、蝋燭の炎をゆらゆらと灯したような明るさだ。 岩の壁に空いた穴から光は漏れていた。屈んでようやく入れるほどの大きさの入り口をくぐると、少しだけ広いスペースに出る。炎は無いが、辺りはぼんやりと明るい。 そこに、人影が、壁を背に座っていた。 近寄ってみると、まだあどけなさが残る子供のような姿をした、「貴方」であった。 冷えた体をそっと抱え上げて包んでやる。 抱きしめ返す力もなく、痩せ細った体にはいくつもの小さな傷があった。 ほのかに輝く金の髪と白い肌が、この部屋を灯していた。 貴方が記憶の底にしまいこんだ幾多の痛みは、こんな場所で独り凍えていたのか。 この子を連れて帰りたいと言ったら、貴方に「それは出来ない」と反対された。今はまだ、この場所が必要なのだと。 ならば少しだけ、私のぬくもりを残していっていいだろうか。 その場しのぎにしかならない優しさと言われても構わない。私は「彼」を知った。だからまた、必ずここを訪れるだろう。 そんな約束に、貴方はほろ苦く笑った。
(2013)