そっと、水に浮かんだ花弁を掬う。 指の間からするりと零れて、一枚も残らない。 花弁は変わらずに水に漂う。 大切なものを、今更大切だと気付いて、掴もうとするのに。 溢れる水に阻まれて、掴めずにいる。 いっそ水を無くしてしまえばいい。 けれどそれでは、今浮かんでいる花弁は深い底に沈んでしまい、私の手には永遠に届かないのだろう。 花弁が必要ならば、 水をもっと溢れさせよう。 零れるほどに。 花弁が水と共に零れるほどに。 無駄なものなどないと言いたいのなら、 無駄だと思うものを最大限に利用すればいい。 この人生も、死ぬまでに果たすたったひとつの夢の一瞬のためならば、 利用すればいい。 その夢は絶対に忘れないよう。 いつでも花弁を見失わないよう。 何度でも存在を確かめるのだ。 密かに。けれど確実に。
(2014)