ガブリエル

受胎告知しに降りてきた大天使ガブリエルを拒むマリアというお話。
“子供の様に愚かしく
迷うだけの弱き心に
正しき導きを与えましょう”


廻り続ける反響音
纏わり付く煩さに
歪んだ空が呑まれ出す


“なぜ逆らうのですか
なぜ拒むのですか”

“運命(すべて)は
決められているというのに”


欲しくもない叱責に踊らされ
足枷を嵌められ
いつから私は神の所有物(もの)になったのか


“聞こえていますか
虚空の向こうで
奈落の果てで
虹の雫が煌めく音が”

“受け取りなさい
さすれば道は開かれよう”


今、漆黒をかける一筋の光が
捉える間もなく地平に消える

そんな幾億の繰り事の一つに
価値を見出す事さえ
何の意味があるのか

窮屈な理(ことわり)に納めるだけの
強引な結末など知りたくはない

生まれるのは闇か光か
追いかける日々が黄昏を彷徨っても

真実を計る天秤を
私は貴方に奪われたりしない
仄暗い部屋は
金色に鈍く香る
蝋の火は不規則に揺れて
巨大な影を震えさせる

廻り続ける低い反響音
音に囲まれ呑まれて
空が心地よく歪む

小さな祭壇に
四角く収まる穏やかな瞳
諌めようとしているのか
癒そうとしているのか
全て見透かすように
時折微笑む

今はまだ求め続けなさい
今はまだ迷い続けなさい
愛に躓いたままで
手探りの言葉が虚ろう

夕闇は曖昧に染まり
訪れる静寂と昏冥に怯える

答えはすでに知っている
心が灯す光の意味を

繰り返し問い慰めながら
変わらない安寧に甘えて
扉を開けることから逃げている

手繰る糸が途切れる
道標は朽ちて読めない
底知れぬ淵を見つめ佇む私に
抗えない声が届く

遮られた光の向こうに
赤い月が微笑む
影に浮かんだ真実が
迷いを打ち砕いてゆく

(2015年初め〜4月頃)